交通事故を減らすための国の施策には、5年ごとの計画があります。中央交通安全対策会議が決める「交通安全基本計画」で、2026年3月27日に第12次計画(令和8年度〜令和12年度)が決定されました。
警察の取締りの年度ごとの方針を書いた交通安全業務計画も、この基本計画にもとづいてつくられます。ここでは第12次計画の道路交通の部分を原文で読み、目標値の意味と、取締りについて何が書かれているのかを整理します。
交通安全基本計画とは
交通安全基本計画は、交通安全対策基本法第22条にもとづく計画です。同条第1項は「中央交通安全対策会議は、交通安全基本計画を作成しなければならない」と定め、第2項は、計画に「交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱」などを定めるとしています。
中央交通安全対策会議は内閣府に置かれ(同法第14条)、会長は内閣総理大臣です。第12次計画を決めた2026年3月27日の会議は持ち回り開催で、国家公安委員会委員長や国土交通大臣など各大臣が出席者として名を連ねています。
計画は昭和46年度の第1次から5年ごとに作られてきました。第12次計画は冒頭で、昭和45年に1万6,765人だった道路交通事故の死者数が、令和7年中は2,547人と6分の1以下になり、現行の交通事故統計となった昭和23年以降で最少になったとしています。
警察庁などの指定行政機関の長は、この基本計画にもとづいて毎年度「交通安全業務計画」をつくります(同法第24条)。基本計画が5年分の大きな方針、業務計画がその年度の具体的な実施計画という関係です。
第12次計画の目標
第12次計画は、道路交通について次の2つの目標を掲げています(計画 本文16ページ)。
※ 第12次交通安全基本計画 本文11・13・16ページ、同計画(概要)資料1による。24時間死者数は、交通事故の発生から24時間以内に亡くなった人の数です。詳細は必ず公式情報をご確認ください。
24時間死者数1,900人は、令和2年から令和6年の間の24時間死者数と30日以内死者数の比率の平均(1.22)を掛けると、30日以内死者数でおおむね2,300人になると計画は説明しています。人口10万人当たりでは1.91人で、国際道路交通事故データベース(IRTAD)がデータを公表している35か国の中で、日本は2023年に2.62人と5番目に少ない水準でした。計画は、この目標を達成すれば、他の国の交通事故情勢が大きく変わらない限り「最も少ない国となる」としています。
重傷者数の目標を置く理由として、計画は、先進技術や救急医療の発展で、以前なら死亡事故になっていた事故が重傷にとどまることも少なくないため、日常生活に影響の残る重傷事故を減らすことにも着目する、と書いています。
あわせて、諸外国と比べて歩行中・自転車乗用中の死者の割合が高いことから、歩行中と自転車乗用中の死者数は、死者数全体の減少割合以上の割合で減らすよう取り組むとしています。
目標値の根拠になった予測
計画は、内閣府の「道路交通安全に関する基本政策等に係る調査」(令和7年3月)の長期予測を引いています。令和12年の予測値は、24時間死者数が1,950〜2,710人、重傷者数が18,940〜27,190人です(本文15ページ)。死者数の目標1,900人は、この予測の幅の下限をさらに下回る値です。同じ調査で行われた国民アンケート(全国の16歳以上3,000人)の結果は交通安全の国民アンケート2024で扱っています。
第11次計画の目標は達成できなかった
第11次計画(令和3年度〜令和7年度)は、令和7年までに24時間死者数を2,000人以下、重傷者数を22,000人以下にする目標でした。第12次計画は、令和7年の実績がそれぞれ2,547人、27,563人だったとして、どちらの目標も「遺憾ながら達成するに至らなかった」と記しています(本文11ページ)。
計画には、これまでの目標値と実績の一覧も載っています。
※ 第12次交通安全基本計画 本文13ページ「これまでの交通安全基本計画の目標値と実数値」から第7次以降を抜粋。第8次〜第10次は死傷者数、第11次は重傷者数の目標も併記されています。詳細は必ず公式情報をご確認ください。
死者数の目標は、第7次・第8次では達成されましたが、第9次以降は3回続けて届いていません。第12次の1,900人は、第11次の2,000人からさらに100人低い目標です。
計画は交通事故の見通しについて、令和3年から令和6年にかけて死者数等が横ばいで推移したことを挙げ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や5類感染症への移行による影響も想定されるとしています。令和7年の死者数は前年から116人(4.4%)減りましたが、この減少傾向が続くかは「予断を許さない」としています(本文15ページ)。
重視する10の視点
計画は、道路交通の対策を考えるうえで重視する視点として、次の10項目を挙げています(本文21〜30ページ)。
- 高齢者を交通事故から守るとともに交通事故を起こさないための総合的な対策
- こどもの安全確保のための環境整備
- 歩行者の安全確保のための意識変容
- 自転車の安全確保のための法令遵守と通行環境の整備
- 外国人の交通安全対策の推進
- 特定小型原動機付自転車を始めとする小型モビリティの法令遵守の徹底と安全対策の推進
- 生活道路における歩行者等の安全確保
- 先進技術の活用推進
- 交通実態等を踏まえたきめ細かな対策の推進
- 地域が一体となった交通安全対策の推進
それぞれの視点には、根拠となる数字が添えられています。いくつかを挙げます。
- 高齢運転者: 免許人口10万人当たりの死亡事故件数は、令和7年に75歳以上が4.75件、75歳未満が2.54件で、計画は75歳以上が「約2倍」としています。運転技能検査・認知機能検査・高齢者講習を適切に実施するとともに、「実施課題の見直し等」の新たな対策を講じる必要があるとしています。運転技能検査の見直しの動きは運転技能検査の見直しの記事で扱っています。
- こども: 6歳以上の児童でも体格等の事情でシートベルトを適切に着用できない場合にはチャイルドシートを使用することを定着させるとし、6歳以上の児童のチャイルドシートの使用状況等を踏まえつつ「制度的な検討を進める」としています。現行のルールはチャイルドシートの記事にまとめています。
- 自転車: 自転車乗用中の死者は令和7年に301人で、そのうち「法令違反あり」の割合は79.7%です。令和8年4月から自転車に交通反則通告制度(いわゆる青切符)が適用されたことを踏まえ、悪質・危険な違反には厳正な取締りを進めるとしています。
- 外国人: 日本の運転免許を保有する外国人は令和7年に133万8,977人、外国人運転者による交通事故は同年に7,906件で、いずれも増加しているとしています。
- 生活道路: 生活道路の法定速度が令和8年9月から30km/hに引き下げられることを踏まえ、施行準備と広報啓発を行うとしています。制度の中身は生活道路の法定速度30km/hの記事で扱っています。
取締りについて書かれていること
取締りは、第3節「講じようとする施策」の「5 道路交通秩序の維持」で扱われています(本文86〜91ページ)。冒頭で、交通事故実態等を的確に分析し、死亡事故等の重大事故に直結する悪質性・危険性の高い違反や、駐車違反等の迷惑性の高い違反に重点を置いた取締りを進めるとしています。
一般道路の取締りは、次の6項目に分かれています。
※ 第12次交通安全基本計画 本文86〜89ページ「5 道路交通秩序の維持」(1)ア の項目です。詳細は必ず公式情報をご確認ください。
重点を置く違反
(ア) は、無免許運転、飲酒運転、妨害運転、著しい速度超過、通行区分違反、交差点関連違反等の「交通事故に直結する悪質性・危険性の高い違反」と、国民から取締り要望の多い迷惑性の高い違反に重点を置くとしています。「ながらスマホ」の取締りも推進強化するとしています。
速度取締りについては、取締り場所の確保が難しい生活道路や、警察官を十分に配置しにくい時間帯でも取り締まれるよう、可搬式速度違反自動取締装置の全国的な整備拡充を図るなどして、生活道路の事故多発地点等を重点に取締りを進めるとしています。装置の中身は可搬式オービスの記事で扱っています。
取締りの実施状況を事故の発生実態で分析し、取締り計画の見直しに反映させる、いわゆるPDCAサイクルをより機能させるとし、その結果や方針をウェブサイトやSNS等で国民に説明する情報発信にも努めるとしています。この考え方は速度取締り指針の記事で扱った通達と同じ流れにあります。
高速道路では、著しい速度超過、飲酒運転、妨害運転、車間距離不保持、通行帯違反、携帯電話使用等の取締りを強化するとしています。
取締りの機材と手続
同じ(ア)には、取締りの資機材についての記述もあります。
- 飲酒運転のアルコール濃度の厳格な適用を図るための飲酒検知資機材の整備
- ウェアラブルカメラ等のカメラ映像の活用、ドローンによる捜査資料の作成
- 交通反則切符のデータ端末での作成、反則金納付の電子化の導入
いずれも「進める」「導入を図る」という書き方で、導入の時期は計画に書かれていません。
背後責任と外国人運転者
(イ) は、事業活動に関して行われた無免許運転、過積載、過労運転等について、自動車の使用者等への責任追及を徹底するとしています。事業所の従業員が飲酒運転をした場合の使用者の責任追及を含め、運行管理者・安全運転管理者によるアルコール検知器を用いた酒気帯び確認等の義務の履行状況も確認するとしています。この義務はアルコールチェック義務化の記事で扱っています。
さらに、外国人による無免許運転が多いことを踏まえ、雇用する外国人が無免許運転等を起こした場合の雇用者等の背後責任の追及を徹底するとしています。外国の免許から日本の免許への切替え(いわゆる外免切替)については、令和7年10月に改正された制度を厳格に運用するとしています。制度の中身は外免切替の記事にまとめています。
自転車・電動モビリティ
(エ) の自転車は、無灯火、二人乗り、信号無視、一時不停止等に対して積極的に指導警告を行うとともに、自転車指導啓発重点地区等を中心に事故抑止に資する取締りを進め、悪質・危険な違反は検挙するとしています。重点地区等の選定状況を、具体的な選定理由とともにウェブサイトや広報紙等で公表するとも書かれています。青切符の仕組みは自転車の青切符の記事を参照してください。
(オ) の特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード)は、悪質・危険な違反の取締りを強化するほか、シェアリング事業者に対して、悪質・危険な利用者のサービス利用停止やアカウント抹消の措置を講じるよう働き掛けるとしています。違反の実態は電動キックボードの違反と取締りの記事で扱っています。
(カ) のペダル付き電動バイクは、電動アシスト自転車ではなく一般原動機付自転車または自動車に当たり、ナンバープレート・運転免許・乗車用ヘルメットが必要であることの周知を徹底し、無免許運転・通行区分違反等の取締りを強化するとしています。電動アシスト自転車として販売する違法な販売事業者への対策も進めるとしています。
危険運転致死傷罪の見直し
交通事故事件の捜査の項目では、初動捜査の段階から危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第2条・第3条)の立件も視野に入れた捜査を進めるとしたうえで、同罪について「法制審議会の調査審議の結果を踏まえて構成要件を見直すための法改正を行うなど適切に対応する」としています(本文89ページ)。
この見直しは、計画の決定後の2026年7月に改正法(令和8年法律第52号)として公布され、2026年7月21日から、速度とアルコールの数値基準が同法第2条の要件に入っています。中身は危険運転致死傷罪の数値基準の記事で扱っています。
第12次で新たに盛り込まれた施策
計画の概要資料(資料3「道路交通の安全における主な施策」)は、第12次計画で新たに盛り込んだ施策に下線を引いています。取締りや運転者に関わるもののうち、下線が引かれているのは次のとおりです。
- 生活道路の法定速度を30km/hに引下げ、「ゾーン30プラス」の整備
- いわゆる外免切替制度について、令和7年10月に改正された新たな制度を厳格に運用
- 無免許運転等を行った場合における雇用者等の背後責任の追及
- 外国人運転者による交通事故や交通違反の取扱い時における出入国在留管理庁との連携強化
- 自転車のながらスマホの罰則強化・酒気帯び運転の罰則対象化に関する広報啓発、青切符についての広報啓発
- 特定小型原動機付自転車の交通指導取締りの一層の強化と、シェアリング事業者による悪質・危険な利用者のサービス利用停止措置等の導入の働き掛け
- ペダル付き電動バイクの交通指導取締りの強化と、電動アシスト自転車として偽って販売する違法な販売事業者の摘発
一方、同じ資料で「可搬式速度違反自動取締装置を活用するなどした生活道路における交通指導取締りの推進」や、無免許運転・飲酒運転等に重点を置いた取締りには下線が引かれていません。第11次計画から続く施策という位置づけです。
ポイント:基本計画は5年間の施策の大綱で、それ自体が反則金や罰則を変えるものではありません。取締りの具体的な方針は、基本計画にもとづいて毎年度つくられる交通安全業務計画や、警察庁の通達で確認できます。
安全運転のために
第12次計画は、死者数を令和12年までに1,900人以下にするという、これまでで最も低い目標を掲げました。計画が取締りの重点に挙げた飲酒運転、著しい速度超過、通行区分違反、ながらスマホなどは、どれも運転者一人ひとりが避けられる違反です。生活道路では速度を落とし、横断歩道の手前では歩行者の有無を確かめて、安全運転を心がけましょう。
よくある質問
交通安全対策基本法第22条にもとづき、内閣府に置かれた中央交通安全対策会議がつくる計画です。交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱などを定めます。昭和46年度の第1次から5年ごとに作られており、第12次計画は令和8年3月27日に決定され、期間は令和8年度から令和12年度までです。
道路交通については、令和12年までに24時間死者数を1,900人以下とし、世界一安全な道路交通を実現すること、令和12年までに重傷者数を20,000人以下にすることの2つです。24時間死者数1,900人は、30日以内死者数に換算するとおおむね2,300人になると計画は説明しています。
達成されていません。第11次計画は令和7年までに24時間死者数を2,000人以下、重傷者数を22,000人以下にする目標でしたが、令和7年中の死者数は2,547人、重傷者数は27,563人でした。第12次計画は、いずれの目標も「遺憾ながら達成するに至らなかった」と記しています。
交通安全基本計画は政府全体の5か年の計画で、交通安全業務計画は国家公安委員会・警察庁などの指定行政機関の長が、交通安全基本計画にもとづいて毎年度つくる計画です(交通安全対策基本法第24条)。警察の取締りの年度ごとの方針は、交通安全業務計画のほうに具体的に書かれています。
基本計画は施策の大綱を定めるもので、それ自体が罰則や反則金を変えるものではありません。たとえば反則金納付の電子化は「導入を図る」という書き方で、実施の時期は計画に書かれていません。危険運転致死傷罪の構成要件の見直しのように、計画の決定後に法改正が行われたものもあります。個々の制度の変更は、法令の改正や警察庁の通達などを確認する必要があります。
都道府県別の取り締まりデータ
道路交通法違反の検挙件数(人口千人当たり・2023年度)は都道府県で差があります。全国平均は 36.1件。
47都道府県のランキングを見る本記事は安全運転の注意喚起を目的とした一般的な情報提供です。取り締まりの回避を勧めるものではありません。最新かつ正確な情報は、警察庁・各都道府県警察などの公式情報をご確認ください。