「速度取締りは隠れて行うもの」というイメージがあるかもしれません。しかし警察庁の通達を読むと、書かれているのはむしろ逆のことです。2025年3月10日付けの通達(PDCA通達)は、交通指導取締りを「国民に警察官やパトカー等の姿を見せて、目に見える形で行うことを基本とする」と定めています。
ここでは、この通達と、あわせて示された速度取締り指針の公表について、原文にあたって整理します。取り締まりを避けるための情報ではなく、警察庁が公表している文書に何が書かれているかの解説です。
取り締まりの目的は「検挙」ではない
PDCA通達は、交通指導取締りの基本を次のように定めています。
交通指導取締りは、取締り自体が目的ではなく、交通の秩序を維持し、交通の安全と円滑を確保することを目的としていることから、国民に警察官やパトカー等の姿を見せて、目に見える形で行うことを基本とする。
取締りそのものが目的なのではなく、交通の安全を確保することが目的である——だから見える形で行う、という組み立てです。
ポイント:通達は「取締り自体が目的ではない」と明記しています。検挙の件数を増やすことではなく、事故を減らすことが目的だという立場です。
この考え方は、警察庁のロジックモデル(政策の効果を図式化したもの)にも表れています。そこでは、速度を抑える効果に向かう手段として、「交通取締による検挙」と並んで「情報発信(看板設置)」が置かれています。取締りと情報発信は、どちらも同じ目的(速度の抑制)に向かう手段として並列に扱われているということです。
PDCAサイクルで取締りを管理する
PDCA通達の中心にあるのは、取締りを場当たり的に行うのではなく、サイクルで管理するという考え方です。
交通死亡事故などの発生場所・時間帯・原因を分析し、地域住民の要望なども勘案して、警察署長を交えた検討を経て取締り方針を策定します。この方針には赤色灯を点灯させた警戒活動や取締り広報も含み、取締りだけに限られないとされています。
策定した方針に従い、具体的な月計画・週計画を立てて実施します。
交通死亡事故などの発生件数や住民の反響を指標として、取締りの効果を検証します。
検証結果を次の方針に反映します。管理の単位は警察署ごとで、検討や意思決定の状況は管理簿に記録されます。
管理の単位が警察署ごとであること、そして各段階の検討・意思決定を「交通指導取締り管理簿」に記録して保存することが定められています。
「不自然に多い取締り」は点検の対象になる
このバッチで最も注目したいのが、通達が取締り件数の偏りをどう扱っているかです。効果検証の段階について、通達はこう書いています。
取締りの重点としていないにもかかわらず、取締り件数が不自然に多い場所には、特定の警察官による定点取締りが常態化し、取締り自体が目的化している可能性があることから、取締りを行う場所・時間帯のほか、取締りの対象とする違反種別について、GISや管理簿を活用した取締りの点検・見直しを行うこと。
つまり、重点でもないのに取締り件数が突出して多い場所は、「取締りが目的化している可能性がある」として点検の対象になる、ということです。
ポイント:警察庁自身が、取締り件数が不自然に多い場所を「取締り自体が目的化している可能性」として点検の対象に挙げています。取締りは事故抑止のためのもの、という原則を裏側から示した記述です。
あわせて通達は、取締り方針や取締り計画と「かい離した無秩序な取締り」が行われることのないよう、警察署の交通担当課長らへの指導教養を実施することも指示しています。
源流は2013年の懇談会提言
この考え方には源流があります。2013年12月26日に取りまとめられた「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する提言」です。提言は、当時の課題をこう述べていました。
取締り場所が固定化され、交通事故抑止に効果のある取締りになっていないのではないかとの指摘もあるところである。
そのうえで、取締りの意義や必要性について国民の理解を得るためには「取締りの在り方だけでなく国民への説明等についても議論することが重要である」としています。取締りの内容を国民に説明していく、という方向性は、このときから示されていたことになります。
速度取締り指針の公表
PDCA通達と同じ2025年3月10日付けで、「速度取締り指針の策定、公表について」(丁交指発第35号)も示達されました。PDCA通達の本文には、次のように記されています。
速度取締りに関して、その方針、背景事情等について明らかにした速度取締り指針を策定し、公表することとしている
速度取締りをどこで、なぜ行うのか——その方針と背景を明らかにして公表する、というものです。実際に、警視庁や千葉県警、埼玉県警をはじめ多くの警察が速度取締り指針や公開取締りの情報を公表しています。取締りの予定や重点を、あらかじめ示す取り組みが広がっています。
これは、前の節で見た「目に見える形で行うことを基本とする」という原則の、具体的な現れといえます。取締りの情報を事前に示すことは、通達が定める目的(速度の抑制と事故の防止)と矛盾しません。むしろ、その目的に沿った手段の一つとして位置づけられています。
走る人にとって意味すること
これらの文書が示しているのは、速度取締りが「ドライバーを捕まえるため」ではなく「事故を減らすため」に設計されている、という建前と仕組みです。取締りの情報が公表され、看板や警戒活動で「見える形」にされているのは、速度を出させないための働きかけそのものです。
だとすれば、取締りの情報にいちばん素直な向き合い方は、「その場所では速度が出やすいから事故が起きやすい」という警告として受け取ることです。取締りがあるから速度を落とすのではなく、事故が起きやすいから速度を落とす——通達が描いている本来の姿は、そちらに近いといえます。
見かけた取り締まりを共有して、みんなの注意喚起に。
よくある質問
速度取締りに関して、その方針や背景事情などを明らかにして公表する文書です。2025年3月10日の警察庁通達(丁交指発第35号)で示達され、警視庁や複数の県警が公表しています。取締りをどこで・なぜ行うのかを、あらかじめ示すものです。
取締りを「方針の策定・実行・効果検証・反映」というPDCAサイクルで管理することを定めました。通達は、取締りの重点としていないのに取締り件数が不自然に多い場所について、特定の警察官による定点取締りが常態化し取締り自体が目的化している可能性がある、として、GISや管理簿を活用した点検・見直しを指示しています。
通達は「交通指導取締りは、取締り自体が目的ではなく、交通の秩序を維持し、交通の安全と円滑を確保することを目的としている」と明記しています。そのうえで、国民に警察官やパトカー等の姿を見せて、目に見える形で行うことを基本とする、としています。
PDCA通達の有効期間は令和12年(2030年)3月31日までとされています。数年にわたって効力を持つ通達です。
走行予定エリアを事前に確認し、速度が出やすい地点を「気をつけよう」という意識づけにご活用ください。取り締まりの回避を目的としたものではありません。
本記事は安全運転の注意喚起を目的とした一般的な情報提供です。取り締まりの回避を勧めるものではありません。最新かつ正確な情報は、警察庁・各都道府県警察などの公式情報をご確認ください。