75歳以上の運転者のうち一定の違反歴がある人は、免許証等の更新のときに「運転技能検査」を受けなければなりません。この検査の内容を見直す方向性が、警察庁の有識者検討会の報告書にまとめられました。
報告書は「運転技能検査の内容の充実に係る方向性等に関する報告書」(令和8年8月)で、警察庁交通局運転免許課が2026年9月3日付けの広報資料とともに公表しています。その2週間後の2026年9月17日には、報告書の方向性のうち「方向変換」の追加を実現する道路交通法施行規則の改正案(内閣府令案)が公表され、施行予定日と意見募集の期間が示されました。ここでは、改正案・報告書と道路交通法・同施行令・同施行規則の条文から、何がどこまで決まったのか、そもそも今の検査がどういうものかを整理します。あわせて、今の検査の対象や合格ラインを決めた警察庁の調査研究報告書(令和3年3月)にも当たり、なぜ今の形になったのかを確認します。
示されたのは3つの方向性
報告書の「おわりに」は、検討の結果を次の3つにまとめています。
| # | 方向性 | 区分 |
|---|---|---|
| 1 | 運転技能検査の課題として「方向変換」を追加する | 検査の内容 |
| 2 | 減点項目として「安全不確認」を追加する | 実施方法 |
| 3 | 「一時不停止(大)」の減点基準(減点点数)を引き上げる | 実施方法 |
※ 報告書「おわりに」および概要資料による。
ポイント:報告書が示したのは方向性であって、これによって検査の内容が変わるわけではありません。2026年9月3日の広報資料の「3 今後の対応」は「報告書の内容等を踏まえ、道路交通法施行規則(昭和35年総理府令第60号)の改正等、高齢運転者による交通事故防止を図るために必要な措置等を講ずることとする」と述べるにとどまっていました。このうち①「方向変換」の追加は、2026年9月17日に公表された施行規則の改正案で令和9年(2027年)6月1日施行予定と示されました(次の節)。②と③はこの改正案には含まれていません。
検討会は「運転技能検査の見直しに関する有識者検討会」で、令和8年7月8日・7月29日・8月24日の計3回開かれました。座長は蓮花一己(帝塚山大学名誉教授)で、自動車教習所の関係者やモータージャーナリスト、研究者など8名の有識者委員と、警察庁交通局運転免許課長・同課高齢運転者等支援室長で構成されています。
改正案で「方向変換」の追加は2027年6月1日施行予定に(2026年9月17日公表)
警察庁交通局運転免許課は2026年9月17日、「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対する意見の募集を報道発表資料で公表しました。広報資料・意見公募要領・案文(新旧対照表と附則)の3点が公開されており、運転技能検査に関わるのは次の内容です。
| 項目 | 改正案の内容 | 施行予定日 |
|---|---|---|
| 運転技能検査の課題に「方向変換」を追加 | 施行規則26条の5第1項に第3号「方向変換」を加え、現行の第3号「段差の乗り上げ(停止を含む。)」は第4号に繰り下げる | 令和9年(2027年)6月1日 |
| 大型自動二輪免許の教習用「波状路コース」の基準見直し | 別表第三の二のコースの形状・構造の基準を改める | 令和9年(2027年)2月1日 |
| その他所要の規定の整備 | 17条2項6号の条番号の表記を整える | 令和9年(2027年)2月1日 |
※ 警察庁「「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対する意見の募集について」(令和8年9月17日 交通局運転免許課 広報資料)の「1 改正の概要」「3 施行期日」、意見公募要領の別紙「3 命令等の内容」「4 施行期日」、案文の新旧対照表と附則1による。根拠条項は道路交通法97条の2第1項3号イ・114条の6、道路交通法施行令35条2項1号ロ。
広報資料は「方向変換」の追加について、報告書において「高齢運転者はアクセル・ブレーキの踏み間違いによる交通事故が多いことを踏まえ、ペダル操作の正確性を確認するため、運転技能検査の課題に『方向変換』を追加すべきという方向性が示されたことを受け」たものと説明しています。
改正案に入っているのは「方向変換」だけ
報告書の3つの方向性のうち、改正案の案文に書かれているのは①「方向変換」の追加だけです。②減点項目への「安全不確認」の追加と、③「一時不停止(大)」の減点点数の引上げは、案文のどこにも出てきません。
これは、減点項目と減点点数が施行規則ではなく警察庁の通達(後掲「検査の課題と合格基準」)で定められていることによります。施行規則が定めるのは検査の項目(26条の5第1項)と、合格・不合格を分ける成績の基準(26条の6第1号。第二種免許の関係者は80%未満、それ以外は70%未満が不合格の基準)で、どの課題で何点を減点するかは施行規則に無いためです。②③がいつ・どのような形で実施されるのかは、この改正案の公表時点では示されていません。
施行前に合格した検査は、施行後も合格として扱う(経過措置)
案文の附則2は経過措置を置いています。改正前の施行規則26条の5第1項の項目(方向変換を含まない検査)で行われた運転技能検査において、改正前の26条の6第1号の基準に該当しなかった人は、改正後の項目で行われた検査においても改正後の26条の6第1号の基準に該当しなかった人とみなす、という内容です。
26条の6第1号の基準は「80%未満」「70%未満」という不合格の側の基準なので、「該当しなかった人」とは合格した人のことです。つまり、施行日の令和9年(2027年)6月1日より前に「方向変換」の無い検査に合格した人は、施行後に方向変換を含む検査を受け直す必要がない、という案になっています。
意見募集は2026年10月17日まで
意見公募要領によれば、意見の提出期間は2026年9月18日(金)から10月17日(土)までの30日間(必着)で、提出先は e-Gov のパブリックコメント意見提出フォーム、電子メール、郵送(警察庁交通局運転免許課法令係)の3つです。電話は受け付けておらず、提出した意見への個別の回答はされないとされています。意見公募要領は、別紙のどの部分についての意見かが分かるように数字・記号を示して提出するよう求めています。
ポイント:改正案は意見募集にかけられている「案」の段階です。施行予定日や経過措置を含め、確定するのは意見募集の結果を踏まえて内閣府令が公布された後になります。この記事は案の内容をそのまま書いており、公布によって内容が変わる可能性があります。
そもそも運転技能検査とは
運転技能検査は、令和2年の道路交通法改正で導入され、令和4年5月13日から実施されています。報告書は導入の目的を、高齢運転者に自らの運転技能の低下の程度を理解させるとともに、運転技能が明らかに低下した人の免許証等の更新をしないこととすること、と説明しています。
対象になるのは「75歳以上」かつ「一定の違反歴あり」
条文は道路交通法101条の4第3項です。免許証等の更新を受けようとする人で、更新期間が満了する日における年齢が75歳以上のもの(普通自動車対応免許を現に受けている人であって、政令で定める基準に該当するものに限る)は、更新期間が満了する日前6か月以内に運転技能検査等を受けていなければならない、とされています。
この「政令で定める基準」は道路交通法施行令37条の6の3にあり、免許証等の更新を受けようとする人については、特定誕生日の160日前の日より前の3年間に、同令34条の3第5項の「基準違反行為」をしたことがあること、とされています。
条文には除外の括弧書きが付いており、運転技能検査等の結果が不合格の基準に該当しなかった場合、その検査等を受けた日以前にした行為は数えない、とされています。つまり前回の検査に合格していれば、その受検日より前の違反歴は繰り越されません。
対象になる違反行為は16類型
施行令34条の3第5項が挙げる「基準違反行為」は、普通自動車等の運転に関して行われた次の16類型です。
| # | 条文 | 見出し |
|---|---|---|
| 1 | 法7条 | 信号機の信号等に従う義務 |
| 2 | 法17条1項〜4項・6項 | 通行区分 |
| 3 | 法20条 | 車両通行帯 |
| 4 | 法20条の2第1項 | 路線バス等優先通行帯 |
| 5 | 法22条1項 | 最高速度 |
| 6 | 法25条の2 | 横断等の禁止 |
| 7 | 法33条1項・2項 | 踏切の通過 |
| 8 | 法34条1項・2項・4項 | 左折又は右折 |
| 9 | 法35条の2 | 環状交差点における左折等 |
| 10 | 法36条 | 交差点における他の車両等との関係等 |
| 11 | 法37条 | 交差点における他の車両等との関係等 |
| 12 | 法37条の2 | 環状交差点における他の車両等との関係等 |
| 13 | 法38条 | 横断歩道等における歩行者等の優先 |
| 14 | 法38条の2 | 横断歩道のない交差点における歩行者の優先 |
| 15 | 法70条 | 安全運転の義務 |
| 16 | 法71条5号の5 | 運転者の遵守事項(携帯電話使用等) |
※ 道路交通法施行令34条の3第5項各号による。見出しは同項が条番号に添えているもの。16は「別表第二の備考の二の16又は23に規定する行為に該当するものに限る」とされており、同備考の16が「携帯電話使用等(交通の危険)」、23が「携帯電話使用等(保持)」にあたる。
日常的な呼び名でいえば、信号無視・通行区分違反・速度超過・踏切不停止・交差点右左折方法・横断歩行者等妨害・安全運転義務違反・いわゆるながら運転といった違反が並びます。違反ごとの点数は違反点数一覧でまとめています。
検査の課題と合格基準
道路交通法施行規則26条の5第1項は、検査を①幹線コース・周回コースの走行または道路における走行(発進・停止・指定速度での走行を含む)②交差点の通行(右折・左折を含む)③段差の乗り上げ(停止を含む)について行うものとしています。2026年9月17日公表の改正案は、この①②の後に「方向変換」を第3号として加え、段差の乗り上げを第4号に繰り下げるものです(前掲)。これに対応する課題として、警察庁の通達(令和7年3月3日付け丁運発第69号「運転技能検査等実施要領の制定について」)が「一時停止」「指示速度による走行」「右折・左折」「信号通過」「段差乗り上げ」を定めています。
採点は100点からの減点方式で、合格基準は大型第二種・中型第二種・普通第二種の免許を受けようとする人または現に受けている人は80%以上、それ以外の人は70%以上です。報告書の参考資料7によれば、受検者1人当たりの走行時間は概ね10分間以上、検査全体では概ね20分間とされています。
| 課題 | 回数 | 減点項目 | 減点点数 |
|---|---|---|---|
| 指示速度による走行 | 1回 | 課題速度不履行 | −10 |
| 一時停止 | 2回 | 一時不停止(小) | −10 |
| 一時停止 | 2回 | 一時不停止(大) | −20 |
| 右折・左折 | 各2回 | 右側通行(小)・脱輪 | −20 |
| 右折・左折 | 各2回 | 右側通行(大) | −40 |
| 信号通過 | 2回 | 信号無視(小) | −10 |
| 信号通過 | 2回 | 信号無視(大) | −40 |
| 段差乗り上げ | 1回 | 乗り上げ不適 | −20 |
| (課題共通) | — | 補助ブレーキ等 | −30 |
※ 報告書 参考資料8「現行の運転技能検査の減点基準」による。
見直しの対象になった「一時不停止」は、程度によって2段階に分かれています。参考資料8の判断基準は、(小)が「道路標識等による一時停止の指定場所で、車体の一部が停止線を越えるまでに停止しなかったものの、車体の一部が交差道路の側線を延長した線を越えるまでには停止した場合」、(大)が「道路標識等による一時停止の指定場所で、車体の一部が停止線を越えるまでに停止せず、かつ、車体の一部が交差道路の側線を延長した線を越えるまでに停止しなかった場合」です。
なお、運転技能検査の対象にならない70歳以上の人も、更新時に実車指導等を内容とする高齢者講習を受けることが義務づけられており、報告書によればこの実車指導は運転技能検査と同一の内容です。70歳・75歳からの更新で受ける高齢者講習・認知機能検査・運転技能検査の全体は高齢者講習・認知機能検査・運転技能検査の記事で整理しています。
令和7年中の実施状況
| 区分 | 人数 |
|---|---|
| 対象者 | 16万5,756人 |
| 受検者(延べ) | 15万6,513人 |
| 合格者 | 14万5,935人 |
※ 報告書「第2の3(1)」および参考資料7による。合格者は対象者の約88%、受検者の約93%にあたる。
今の検査はどう決まったのか(令和3年3月の調査研究報告書)
対象になる違反の16類型や、課題・減点点数・合格基準は、制度の導入前に警察庁が行った調査研究で固められています。警察庁の「改正道路交通法(高齢運転者対策・第二種免許等の受験資格の見直し)の施行に向けた調査研究報告書」(令和3年3月)です。令和2年の道路交通法改正(令和2年法律第42号)の施行に向けて開かれた「高齢運転者対策・第二種免許等の受験資格に関する有識者会議」(座長 石田敏郎・早稲田大学名誉教授。令和2年4月28日から令和3年2月25日まで計3回)の検討結果がまとめられています。
2026年の見直しは、この報告書が決めた形を変えようとするものです。もともと何を狙ってこの形にしたのかを確かめておくと、見直しの意味が読みやすくなります。
対象を「一定の違反歴がある人」に絞った根拠
報告書は、公益財団法人交通事故総合分析センターのデータを使い、75歳以上の普通自動車対応免許の保有者について、過去3年間の違反歴とその翌1年間の死亡・重傷事故の関係を分析しています。平成26年末から平成30年末までの各年末を基準日とする5期分を集計し、その平均をとったものです。
| 区分 | 人数(5期平均) | 1年間に死亡・重傷事故を起こした人(10万人当たり) | 全体との比 |
|---|---|---|---|
| 75歳以上の普通自動車対応免許の保有者(全体) | 約483.7万人 | 約57.0人 | — |
| 過去3年間に何らかの違反歴あり | 約82.4万人(約17.0%) | 約101.7人 | 約1.8倍 |
| 過去3年間に一定の違反歴あり | 約34.9万人(約7.2%) | 約119.1人 | 約2.1倍 |
※ 警察庁「改正道路交通法(高齢運転者対策・第二種免許等の受験資格の見直し)の施行に向けた調査研究報告書」(令和3年3月)本文9ページ・13ページによる。違反歴・事故は大型・中型・準中型・普通自動車の運転に係るものに限って集計されている。
報告書はこの分析をもとに、検査の対象になる人数を年間約15.3万人(令和4年の推計)と見込み、少なくともこの程度の受検者を受け入れられる体制が要る、としていました。令和7年中の実際の対象者は、前掲のとおり16万5,756人です。
16類型はどう選ばれたか
「一定の違反歴」に入れる違反行為は、次の3つの手順で選ばれています。
| 手順 | 操作 | 目的 |
|---|---|---|
| ① | 10万人当たりの死亡・重傷事故の人数が、「何らかの違反歴あり」の101.7人より高い個別の違反行為を抽出する | 将来重大事故を起こす危険性が類型的に高い違反行為を特定する |
| ② | 過去5年間に、死亡・重傷事故を起こした人がいない年がある違反行為を除く | 類型的に危険性が高いとはいえない違反行為を除く |
| ③ | ①②で抽出した違反行為と似た違反行為を加える | 同じような違反類型を適正に評価する |
※ 同報告書 本文8ページ・10〜12ページ、概要資料7ページによる。
③が必要になった例として、報告書は携帯電話使用等を挙げています。機械的に抽出すると、携帯電話を手に持って通話する「携帯電話使用等(保持)」(10万人当たり152.2人)は選ばれる一方、それによって実際に交通の危険を生じさせた「携帯電話使用等(交通の危険)」は該当者が少ない(5期平均で19人)ために0.0人となり、選ばれません。より重い違反が外れるという不合理を避けるため、似た違反類型を加えることにしたとされています。
こうして整理された違反行為を条文ごとに並べた一覧(報告書の図7)は16項目で、前掲の道路交通法施行令34条の3第5項の16類型と、条・項・号の範囲まで一致しています。
シートベルトの違反は対象から外された
①の基準だけで見ると、座席ベルト装着義務違反も10万人当たり120.1人で、101.7人を上回っていました。それでも「一定の違反行為」には入っていません。
報告書は、座席ベルト装着義務違反には、着用者の保護が主な目的で罰則が設けられていないこと、座席ベルトの装着は運転を始める前の準備行為であることなど、ほかの違反行為と異なる点があると指摘しています。そのうえで、この違反だけを理由に、免許証の更新を認めないという重大な処分につながり得る検査の対象にすることは、国民の理解のもとで制度を円滑に運用する観点から慎重に検討する必要がある、としました。実際に、報告書の図7にも施行令34条の3第5項にも、シートベルトの規定(道路交通法71条の3)は入っていません。シートベルトの違反そのものの扱いはシートベルト非着用の記事で解説しています。
合格ラインは「新規取得時の試験と同じ」ではない
報告書は、検査の課題と合否基準を決めるにあたって考慮した要素を並べています。その中心は次の2つです。
- 新規に免許を取るときの技能試験と同じ内容・基準にするのではなく、安全運転が期待できないほど技能水準が低い場合に不合格とする。
- 検査の結果は免許証の更新を認めないという大きな権利の制約につながり得るため、受検者の納得を得られやすく、自動車教習所の負担も軽くできるよう、裁量性の低い客観的な採点基準にする。
このほか、1人10分程度の短時間で実施できること、受検者にとって普段乗り慣れていない車での検査であることも考慮要素に挙がっています。
この案で、令和2年8月1日から9月3日まで、東京都内の自動車教習所2か所と埼玉県・群馬県の警察の施設2か所で、75歳以上の高齢者講習の受講者218人を対象に実車走行実験が行われました。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 合格(70点以上) | 168人(77.1%) |
| 不合格(70点未満) | 50人(22.9%) |
| 平均点 | 77.4点 |
| 所要時間 | 平均7分27秒 |
| 採点結果に「納得している」 | 約97% |
※ 同報告書 本文15ページ・27ページ・37ページ、概要資料8ページによる。合否・平均点は、実験後に減点点数を一部見直した後の第一種免許の基準で数えたもの。
実験を受けて、減点点数は2か所見直されました。1回で不合格になる「右側通行(大)」「信号無視(大)」は採点を簡単にするため−35点から−40点に(合否には影響しない)、「補助ブレーキ等」は、同じ−20点だった「一時不停止(大)」より危険性が高いとして−20点から−30点に改められています。これが前掲「検査の課題と合格基準」の減点点数です。「一時不停止(大)」を交差道路の側線を延長した線で判断するのも、交差道路を直進する車と衝突する危険性を評価するためとして、この報告書で定められました。
この実験で、一時停止の課題で「一時不停止」(大・小)を1回以上した人は、被験者全体の47.2%、合格者に限っても36.3%でした(本文38ページ 図28)。指示速度・右側通行・脱輪・信号無視・段差乗り上げ・補助ブレーキ等の各項目(1.4%〜15.1%)と比べて最も多く、一時停止は導入前の実験の段階から減点が集中していた課題です。
「導入後に事故との関係を分析して見直す」も書かれていた
報告書は、運転技能検査や高齢者講習の実車指導で点数による評価が始まった後は、その評価結果と受検・受講後の交通事故の発生状況を分析し、安全運転教育に活かすとともに、検査の対象の在り方の見直しなど運転免許制度をさらに検討する際の参考にすべきである、としていました(本文40ページ)。
2026年の見直しの報告書が根拠にした合格者の追跡調査(次の節)は、この「評価結果と事故の関係」を調べたものにあたります。また、2026年の報告書で意見として出た「対象者の拡大」(後掲「引き続き検討するとされた論点」)は、令和3年の報告書が事故データをもとに「一定の違反歴がある人」に絞った線引きを、改めて問うものです。
ポイント:「一定の違反歴」の16類型は、75歳以上の運転者の違反歴と死亡・重傷事故の関係を分析して選ばれたもので、シートベルトの違反のように事故との関係が高く出ても、検査の性格に照らして外されたものもあります。報告書はまた、検査が「新規取得時と同じ技能があるか」を見るものではなく、「安全運転が期待できないほど技能が低いか」を見るものとして設計されたことを明記しています。
見直しのきっかけは、合格者の追跡調査
報告書が見直しに踏み込んだ直接のきっかけは、運転技能検査の合格者を追跡した調査の結果です。
調査は、令和5年5月15日から同年8月31日までの間に運転技能検査に合格した5,270人と、同じ期間に高齢者講習の実車指導を受けた75歳以上の8,233人(過去3年間に一定の違反歴がない人)について、その後2年間の交通事故・交通違反の状況を追いかけたものです。対象となる交通事故は人身事故に限られています。
10万人当たりの事故件数は2倍以上
| 年齢層 | 運転技能検査の合格者 | 高齢者講習(実車指導)の受講者 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 75〜79歳 | 1,457件 | 322件 | 約4.5倍 |
| 80〜84歳 | 1,284件 | 557件 | 約2.3倍 |
| 85歳以上 | 2,086件 | 792件 | 約2.6倍 |
※ 報告書 参考資料9「運転技能検査受検等後2年間の交通事故・交通違反の状況」の10万人当たり交通事故件数による。
交通違反の件数でも同じ向きの差が出ています。10万人当たりでは、75〜79歳が1万6,439件対9,432件(約1.7倍)、80〜84歳が1万4,557件対8,593件(約1.7倍)、85歳以上が1万6,481件対7,376件(約2.2倍)でした。
検討会では「この比較にはいわゆるペーパードライバーも含まれているのではないか」という指摘も出ましたが、報告書は科学警察研究所のアンケート調査(運転頻度が年に1回以下をペーパードライバーと定義した場合、運転技能検査の受検者で0.5%、高齢者講習の受講者で1.6%)を挙げて、両者に大きな差はないと推察されるとしています。
ポイント:比べられているのは「検査に合格した人」と「そもそも検査の対象でなかった人」です。対象は一定の違反歴で絞られているため、もともと事故を起こす危険性が高いとされる層である点は差し引いて読む必要がありますが、報告書はこの結果を「運転技能が低下して交通事故を起こす可能性が高い者が運転技能検査に合格していることがうかがわれる」と評価しています。
事故を起こした合格者は、どの課題で減点されていたか
検査に合格した後に交通事故を起こした81人について、そのときの検査の状況を分析した結果です。
| 減点されていた課題 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 一時停止 | 26人 | 32.1% |
| 右折・左折 | 11人 | 13.6% |
| 段差乗り上げ | 11人 | 13.6% |
| 信号通過 | 6人 | 7.4% |
| 指示速度走行 | 4人 | 4.9% |
| 補助ブレーキ | 1人 | 1.2% |
※ 報告書 参考資料10による。あわせて、81人のうち50.6%(41人)は満点で合格していたとされている。
事故の法令違反は「安全不確認」に集中していた
同じ81人が起こした交通事故(延べ83件)の法令違反の内訳です。
| 法令違反 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 安全運転義務違反 | 53件 | 63.9% |
| 歩行者妨害等 | 10件 | 12.0% |
| 一時不停止 | 9件 | 10.8% |
| 交差点安全進行 | 6件 | 7.2% |
| 信号無視 | 3件 | 3.6% |
| 右左折方法 | 2件 | 2.4% |
※ 報告書 参考資料10による。
最も多い安全運転義務違反53件のうち、「安全不確認」によるものが26件(49.1%)と約半数を占め、さらにその88.4%が「前方・左右の安全不確認」でした。減点項目に「安全不確認」を追加するという方向性は、この数字から導かれています。
3つの方向性の理由
①「方向変換」を追加する
報告書は、令和7年中のアクセル・ブレーキの踏み間違いによる死亡事故の約7割が75歳以上の高齢運転者によるものであることを踏まえ、後方・側方等の複数の情報に対する注意配分とアクセル・ブレーキのペダル操作といった、複数の運転操作を同時に行うことが求められる「方向変換」を課題に追加すべきである、としています。
検討会では「S字(曲線コース)」「クランク(屈折コース)」も候補に挙がりましたが、追加しないこととされました。理由は2つです。1つは、これらが「方向変換」と比べて車両感覚を養うことに重点が置かれており、アクセル・ブレーキのペダル操作の正確性を確認する課題としては十分ではないこと。もう1つは、課題を増やすと検査時間が延び、受検後の安全指導の時間が短くなるおそれがあることです。
この方向性は、2026年9月17日公表の施行規則の改正案で、令和9年(2027年)6月1日施行予定の条文の形になりました(前掲「改正案で「方向変換」の追加は2027年6月1日施行予定に」)。
②「安全不確認」を減点項目に追加する
現行の検査には安全確認の有無を評価する項目が設けられていません。報告書は、安全確認は自動車等を運転するにあたって最も基本的な運転行動であるという委員の意見と、前掲の追跡調査の結果(事故の法令違反の約6割を占める安全運転義務違反のうち、安全不確認によるものが約半数)を挙げて、減点項目に「安全不確認」を追加すべきであるという意見で一致した、としています。
③「一時不停止(大)」の減点点数を引き上げる
追跡調査で、事故を起こした合格者の約3割が「一時停止」の課題で減点されていたことが挙げられています。検討会では「一時不停止(大)」について、信号無視と同様に直ちに不合格となるような基準に引き上げるべきだという意見が出され、減点点数を引き上げるべきであるという意見で一致した、とされています。
現行の減点点数は、「一時不停止(大)」が−20点、「信号無視(大)」が−40点です。
実証実験では合格率がどう動いたか
見直しが検査の運用にどう効くかを確かめるため、令和8年7月9日から24日までの間、埼玉県・千葉県・神奈川県・愛知県で受検者147人を対象とした実証実験が行われています。
| 採点の条件 | 合格率 | 現行との差 | 課題に要した時間(最頻値) |
|---|---|---|---|
| 現行の基準 | 93.9% | — | 11分 |
| 全ての見直し項目を実施 | 70.7% | −23.2pt | 17分 |
| 3つの方向性のみを実施 | 81.6% | −12.3pt | — |
※ 報告書 参考資料11「運転技能検査の内容の充実等に関する実証実験結果」による。「全ての見直し項目」は「方向変換」「クランク」「S字」の3課題をすべて追加した場合で、所要時間は最大38分・最小12分。「3つの方向性のみ」は「方向変換」の追加、「安全不確認」の減点項目への追加、「一時不停止(大)」の減点点数の引上げに限った場合。
この実証実験で用いられた点数は、「一時不停止(大)」が−20点から−40点、追加する「安全不確認」が−10点、追加課題の接触・脱輪が−20点でした。ただしこれは実験のために設定された値であり、報告書の本文は「引き上げるべきである」とするにとどまり、引上げ後の点数を示していません。
追加課題の所要時間は「方向変換」2分、「クランク」1分、「S字」1分で、課題間の移動に2分とされています。全ての課題を追加すると検査時間が現行の約1.5倍になり、受検後の安全指導の時間が短くなるおそれがある——これが、追加する課題を「方向変換」のみに絞った根拠です。
背景にある令和7年の死亡事故の数字
報告書は、見直しの前提として高齢運転者による交通事故の実態を整理しています。
令和7年中の交通事故死者数は2,547人で、現行の交通事故統計となった昭和23年以降で最少となり、6年連続で3,000人を下回りました。死亡事故の件数は全体で2,495件(前年比−103件)です。
一方で、第一当事者が自動車または一般原動機付自転車である死亡事故2,257件のうち、75歳以上の高齢運転者によるものは397件で、17.6%を占めています。この割合は年々増える傾向にあります。免許保有者10万人当たりの死亡事故件数で見ると、令和7年は75歳以上が4.8件、75歳未満が2.5件で、約2倍の差があります。
車両単独と「操作不適」が多い
令和7年に自動車が第一当事者となった死亡事故を事故類型別に見ると、75歳以上の363件のうち車両単独が171件(47.1%)で約半数を占めます。75歳未満は1,578件のうち299件(19%)です。
人的要因別では、75歳以上は操作不適が120件(33.1%)で、そのうちアクセルとブレーキの踏み間違いが31件(操作不適全体の約26%)でした。75歳未満は操作不適が169件(10.7%)、うち踏み間違いは15件(同約9%)です。
令和7年に自動車が第一当事者となった、アクセルとブレーキの踏み間違いによる死亡事故46件を年齢層別に見ると、75〜79歳9件、80〜84歳8件、85歳以上14件で、75歳以上が31件(約67%)を占めています。ペダル踏み間違い時加速抑制装置の義務化が進められている背景にも、この実態があります。
引き続き検討するとされた論点
報告書の「第4」には、意見交換にとどまり結論に至らなかった論点が並んでいます。いずれも委員の意見として記載されているもので、方向性として合意されたものではありません。
運転技能検査は一定の違反歴がある人だけを対象としているため、例えば一定の年齢に達した人については違反歴の有無にかかわらず対象とするなど、対象者の拡大を検討すべきではないか、という意見が出ています。
運転技能検査は繰り返し受検できますが、受検回数に上限を設けることについても検討すべきではないか、という意見が出ています。
検査の結果に応じて、先進安全技術が搭載されたサポートカー限定免許を与えることが挙げられています。その前提として、先進安全技術が低下した運転技能を補えるかを調査・研究することも含むとされています。
技能教習に一定の機能を備えたシステムを活用する動きがあることを踏まえ、将来的には運転技能のうち一定のものをシステムで評価し、教習指導員による評価と分離させることもあり得るのではないか、という意見が出ています。
検査の結果とそれを踏まえた教育の効果との関係を分析したうえで、教育に効果があると証明されれば、高齢運転者支援士等を活用して対象者に運転技能の向上を目的とした教育を受けさせることも考えられる、という意見が出ています。
公共交通機関の縮小等で移動が不便な地域が多いことに鑑み、更新ができなかった人にはミニカーであれば運転を認めるなど、複数の代替手段の在り方を検討できればよい、という意見が出ています。
80歳以上については毎年実車による指導をすることも考えられるが、実施機関の負担等を考慮し、認知機能検査だけでも毎年受けさせることを検討すべきではないか、という意見が出ています。
交通事故を繰り返し起こす人、特に生活圏で繰り返す人への対策や、企業の安全運転管理者等と連携した対策も考えられるのではないか、という意見が出ています。
報告書は、これらについて高齢運転者による交通事故の更なる分析、サポートカーやシステム等の技術の進展、教育の効果等を踏まえつつ、高齢者の移動手段の確保にも配意しながら引き続き検討を進めていくべきである、と結んでいます。
自分が対象かどうかを確かめるには
道路交通法101条の4第5項は、公安委員会が、更新期間が満了する日の年齢が70歳以上・75歳以上の人などの区分に応じて、受けなければならない講習や検査の内容、受けられる日時・場所などを記載した書面を送付するものとする、と定めています。運転技能検査の対象になるかどうかは、この案内で分かることになります。
対象になるのは、前掲の16類型の違反行為を、特定誕生日の160日前の日より前の3年間にしたことがある場合です。逆にいえば、この期間に該当する違反をしなければ運転技能検査の対象にはなりません。日ごろの運転で一時停止や信号、速度の守り方に気をつけておくことが、そのまま更新手続の負担を減らすことにもつながります。
年齢にかかわらず、交差点の手前では停止線でいったん止まり、発進の前に前方と左右を目で確かめる——報告書が減点項目として追加を求めた「安全不確認」も、一時不停止も、突き詰めればこの基本の話です。時間に余裕をもって、安全運転を心がけてください。
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よくある質問
2026年9月3日に公表された報告書は、3つの方向性を示しています。①検査の課題に「方向変換」を追加する、②減点項目に「安全不確認」を追加する、③停止線を越え、さらに交差道路の側線を延長した線を越えるまで停止しなかった「一時不停止(大)」の減点点数を引き上げる、の3つです。このうち①は、警察庁が2026年9月17日に公表した道路交通法施行規則の改正案(内閣府令案)に盛り込まれ、施行予定日は令和9年(2027年)6月1日とされています。②と③は改正案の案文には含まれていません。
課題への「方向変換」の追加は、2026年9月17日に公表された道路交通法施行規則の改正案で、令和9年(2027年)6月1日から施行する予定とされています(附則1ただし書)。ただし2026年9月18日から10月17日までの意見募集にかけられている段階の案であり、確定するのは意見募集の結果を踏まえて公布された後です。「安全不確認」の追加と「一時不停止(大)」の減点点数の引上げについては、この改正案には含まれておらず、時期は示されていません。
改正案の附則2は、改正前の項目で行われた運転技能検査で合格基準を満たした人(施行規則26条の6第1号の不合格の基準に該当しなかった人)を、改正後の項目で行われた検査でも同じく基準に該当しなかった人とみなす、と定めています。つまり施行日より前に合格した検査は、施行後も合格として扱われる案になっています。
警察庁の意見公募要領によれば、意見の提出期間は2026年9月18日(金)から10月17日(土)まで(必着)で、e-Govのパブリックコメント意見提出フォーム、電子メール、郵送(警察庁交通局運転免許課法令係)のいずれかで提出します。電話では受け付けておらず、提出した意見に個別の回答はされないとされています。詳しい提出方法は警察庁の意見公募要領で確認してください。
免許証等の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上で、普通自動車対応免許を現に受けており、かつ政令で定める基準に該当する人です(道路交通法101条の4第3項)。政令の基準は、特定誕生日の160日前の日より前の3年間に、道路交通法施行令34条の3第5項が挙げる16類型の違反行為をしたことがあること、とされています(同令37条の6の3)。
警察庁の調査研究報告書(令和3年3月)が、75歳以上の普通自動車対応免許の保有者について違反歴と死亡・重傷事故の関係を分析した結果によります。1年間に死亡・重傷事故を起こした人は10万人当たりで、全体が約57.0人、過去3年間に何らかの違反歴がある人が約101.7人(約1.8倍)、報告書が選んだ一定の違反歴がある人が約119.1人(約2.1倍)でした。報告書はこの分析をもとに、より死亡・重傷事故を起こしやすい人に対象を絞り込んでいます。2026年の見直しの報告書では、一定の年齢に達した人は違反歴にかかわらず対象とするなど、対象者の拡大を検討すべきではないかという意見も出ていますが、方向性として合意されたものではありません。
なりません。運転技能検査の対象になる違反は道路交通法施行令34条の3第5項の16類型で、シートベルトの規定(道路交通法71条の3)は含まれていません。令和3年3月の警察庁の調査研究報告書は、座席ベルト装着義務違反も死亡・重傷事故との関係は高く出たとしつつ、着用者の保護が主な目的で罰則が設けられていないこと、運転を始める前の準備行為であることなどから、この違反だけで免許証の更新を認めないことにつながり得る検査の対象とすることには慎重な検討が必要だとしていました。
公安委員会は、結果が内閣府令で定める基準に該当する人に対して、免許証等の更新をしないことができるとされています(道路交通法101条の4第4項)。報告書の参考資料6には「繰り返し受検可」と記載されており、更新期間が満了するまでに合格しない場合に更新されない、という流れが示されています。
報告書は、追加すべき課題として「後方、側方等の複数の情報に対する注意配分とアクセル・ブレーキのペダル操作といった、複数の運転操作を同時に行うことが求められる」ものと説明しています。あわせて検討された「S字」「クランク」については、「方向変換」と比べて車両感覚を養うことに重点が置かれており、アクセル・ブレーキのペダル操作の正確性を確認する課題としては十分ではないとして、追加しないこととされました。
報告書はそう読める内容ではありません。令和5年の合格者を2年間追跡した調査では、合格者10万人当たりの交通事故件数が、検査の対象とならなかった75歳以上の2倍以上でした。検査後に事故を起こした合格者81人のうち50.6%(41人)は満点で合格していたことも示されています。報告書はこの結果を「運転技能が低下して交通事故を起こす可能性が高い者が運転技能検査に合格していることがうかがわれる」と評価しています。
走行予定エリアを事前に確認し、速度が出やすい地点や歩行者の多い場所を「気をつけよう」という意識づけにご活用ください。取り締まりの回避を目的としたものではありません。
都道府県別の取り締まりデータ
道路交通法違反の検挙件数(人口千人当たり・2023年度)は都道府県で差があります。全国平均は 36.1件。
47都道府県のランキングを見る本記事は安全運転の注意喚起を目的とした一般的な情報提供です。取り締まりの回避を勧めるものではありません。最新かつ正確な情報は、警察庁・各都道府県警察などの公式情報をご確認ください。