交通ルール・ニュース交通ルール・ニュース

危険運転致死傷罪の数値基準とは?2026年7月21日施行、速度+50km/hとアルコールの線引き

「何km/h出したら危険運転になるのか」に、法律が初めて数字で答えました。ただし、数値に届かなければ対象外、という意味ではありません。2026年7月21日から適用される危険運転致死傷罪の数値基準を、条文にあたって整理します。

取り締まりマップ編集部安全運転支援チーム
公開:2026.07.1710分で読めます
速度計の目盛りの終端側が赤く示され、「最高速度+50km/h以上」が危険運転致死傷罪の数値基準であることを表した、マスコットのトラくんを添えたイラスト

危険運転致死傷罪は、「どれだけ速ければ危険運転なのか」が条文に書かれていない罪でした。2026年6月25日に成立し、7月1日に公布された改正法(令和8年法律第52号)で、その要件に初めて数値が入りました。適用が始まるのは2026年7月21日です。ここでは何がどう変わったのかを、法務省が公表している法律案の条文で確認します。

何が変わったのか

改正は2つの法律にまたがります。自動車運転死傷行為処罰法(危険運転致死傷罪)の側では、次の4点です。

アルコールに数値

「正常な運転が困難な状態」という従来の要件に、血液1mLにつき1.0mg以上または呼気1Lにつき0.5mg以上という数値が書き加えられました。要件そのものを入れ替えるのではなく、内容をはっきりさせる「明確化」と位置づけられています。

速度の類型を追加

道路の最高速度を基準にした数値の類型が新しく加わりました。従来の「その進行を制御することが困難な高速度」の類型は、そのまま残ります。

タイヤの類型を追加

殊更にタイヤを滑らせ、または浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて自動車を走行させる行為が、新しい類型として加わりました。

薬物を別立てに

従来は「アルコール又は薬物の影響により」と一体で書かれていた要件が、アルコールと薬物の別々の号に分けられました。

道路交通法の側では、酒酔い運転の「酒に酔った状態」に危険運転と同じ数値が書き加えられ、あわせて酒気帯び運転の側にその数値が上限として入りました。

ポイント:数値が入ったのはアルコールと速度です。薬物の要件は「正常な運転が困難な状態」のままで、数値基準はありません。

いつから適用されるのか——公布日と施行日は別の日

適用が始まるのは2026年7月21日です。「2026年7月1日から」という情報が見られますが、7月1日は法律が公布された日(官報 号外第146号)で、施行日ではありません。

法律の附則は「この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する」と定めています。公布が7月1日なので、そこから20日を経過した7月21日が施行日になります。法務省の法案ページも、公布日(令和8年7月1日・法律第52号)と施行日(令和8年7月21日)を別の欄で公表しています。

附則にはもう一点、「この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による」という経過措置が置かれています。新しい数値基準が向けられるのは、2026年7月21日以降の行為です。

ポイント:公布日(2026年7月1日)と施行日(2026年7月21日)は別の日です。20日の間隔は、法律の附則が定めたものです。

速度の数値基準——「最高速度+50km/h」の意味

新しく加わった速度の類型は、道路の最高速度を基準に2段階で決まります。最高速度が60km/h以下の道路では最高速度を50km/h超える速度、60km/hを超える道路では最高速度を60km/h超える速度が基準です。

ここでいう「最高速度」は、その道路で実際に適用されている速度を指します。道路標識・道路標示で最高速度が指定されていればその速度、指定がなければ法定速度です。当てはめると次のようになります。

道路の最高速度数値基準に当たる速度
30km/h80km/h 以上
40km/h90km/h 以上
60km/h(一般道路の法定速度)110km/h 以上
100km/h(高速道路の法定速度)160km/h 以上

※ 最高速度が60km/h以下の道路は+50km/h、60km/hを超える道路は+60km/hが基準です。道路標識等で最高速度が指定されている道路では、指定されている速度が基準になります。原動機付自転車を運転する場合は、普通自動二輪車の最高速度を基準とすると定められています。詳細は必ず公式情報をご確認ください。

条文には「超える」と「以上」の両方が出てきます。まず「最高速度を五十キロメートル毎時超える速度」という形で基準になる速度を求め、そのうえで、その速度「以上」の高速度で運転する行為を対象とする、という組み立てです。基準の作り方が「超える」、当てはめが「以上」ということになります。最高速度60km/hの道路であれば、110km/hちょうどから対象に入ります。

数値に届かなければ対象外、ではない

条文をよく読むと、数値基準の後ろにもう一段の書き方が続いています。「その他道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」で、これには「(イ又はロに定める速度に)準ずるものに限る」という限定が付いています。

つまり、数値にわずかに届かない速度であっても、道路や交通の状況からみて重大な危険を避けることが著しく難しい速度であれば、対象になりうるということです。

ポイント:数値基準は「ここから上は対象になる」という下限の目印です。「ここまでは安全」という線ではありません。

加えて、従来からある「その進行を制御することが困難な高速度」の類型は、改正後も別の号として残ります。数値基準は既存の類型を置き換えたのではなく、その隣に加わったものです。数値に達していない速度についてこれまで問われてきた枠組みは、そのまま残ると考えられます。

危険運転致死傷罪の罰則は、次のとおりです。

結果法定刑
人を負傷させた場合15年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合1年以上の有期拘禁刑

※ 上記は危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法第2条)の法定刑です。実際の適用や量刑は個別の事情によります。「拘禁刑」は2025年6月に懲役・禁錮を一本化した刑です。詳細は必ず公式情報をご確認ください。

アルコールの数値基準と、酒気帯び運転との境目

危険運転致死傷罪の側では、アルコールの要件が「アルコール影響正常運転困難状態」として、次のように定められました。

身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態

ここでも数値の後ろに「その他」が続きます。数値に達していなくても、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態であれば当てはまる、という構造は速度と同じです。

一般のドライバーにとって影響が大きいのは、同じ改正が道路交通法にも及んでいる点です。酒酔い運転(第117条の2)の「酒に酔った状態」にも同じ数値が書き加えられました。呼気1リットルにつき0.5mgは、酒気帯び運転の基準である0.15mg/Lのおよそ3.3倍にあたる濃度です。

さらに、酒気帯び運転の罪(第117条の2の2)の側には「血液1mLにつき1.0mg未満の範囲内又は呼気1Lにつき0.5mg未満の範囲内において」という文言が加わりました。これにより、2つの罪の間に数値の境目ができることになります。呼気1Lにつき0.5mg以上のアルコールを保有する状態は「酒に酔った状態」に当たり、酒酔い運転として扱われることになります。

ただし、0.5mg/Lに達していなければ必ず酒気帯び運転にとどまる、というわけではありません。酒酔い運転の要件には「その他アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」という部分が残っているためです。違反点数や罰則の目安は酒気帯び・酒酔い運転の記事にまとめています。

生活道路では80km/hが数値基準になる

2026年9月1日から、中央線等が設けられていない一般道路の法定速度が30km/hに引き下げられます。この2つの改正は、日付が近いだけでなく、内容としてもつながっています。

数値基準はその道路の最高速度を起点に決まるので、法定速度が30km/hになる道路では、30km/hに50km/hを加えた80km/h以上が数値基準に当たることになります。60km/hのままの道路(110km/h以上)とは、30km/hの差が生じます。

同じ80km/hでも、道路によって意味が変わるということです。住宅街の細い道で80km/hを出す場面は多くないとしても、生活道路と幹線道路が地続きにつながっている以上、「この道は何km/hの道路なのか」を意識しておく実益は小さくありません。2026年9月1日以降にどの道路が30km/hになるのかは、生活道路の法定速度30km/h化の記事で整理しています。

なぜ数値基準が入ったのか

法律案の理由には「自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処をするため」と書かれています。

危険運転致死傷罪の適用件数は増え続けています。法務省・検察統計をもとにした適用件数は、2021年の697件から、730件(2022年)、783件(2023年)、844件(2024年)と推移し、2025年は913件(致傷857件・致死56件)で5年連続の増加となりました。

ただし、内訳を見ると様子が違います。2025年に第2条が適用された573件のうち、増加を牽引しているのはアルコールの影響(228件)と殊更信号無視(201件)で、今回数値基準が入った速度に関わる「高速度」の類型は40件です。この類型は2021年から39件・39件・31件・38件・40件と、ほぼ横ばいで推移してきました。

件数が伸びていない類型に数値が入ったことになります。「その進行を制御することが困難な高速度」という従来の要件は、速度そのものではなく運転への影響で判断する書き方であり、当てはめの難しさが指摘されてきました。数値基準は、その当てはめに客観的な目印を与えるものと位置づけられます。

法案は2026年3月31日に国会へ提出され、参議院先議で4月17日に、衆議院で6月25日に、いずれも全会一致で可決されて成立しました。

数値が入ったことで線引きは分かりやすくなりましたが、条文の作りを見るかぎり、数値は「ここから上は対象になる」という下限にすぎません。速度もアルコールも、基準に近づく前の段階で余裕をもって抑えておくことが、結局のところ最も確かな備えになります。

この付近で取り締まりを見た?

見かけた取り締まりを共有して、みんなの注意喚起に。

取り締まりを共有

よくある質問

そうとは限りません。条文は数値基準のほかに、その速度に「準ずる」速度であって、道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度で運転する行為も対象としています。また、従来からある「その進行を制御することが困難な高速度」の類型も残ります。数値は「これ以上なら対象になる」という下限を示すもので、「これ未満なら安全」という線ではありません。

適用が始まるのは2026年7月21日です。2026年7月1日は法律が公布された日(令和8年法律第52号)で、施行日とは別の日です。法律の附則が「公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する」と定めているためで、法務省も公布日と施行日を分けて公表しています。なお、施行前にした行為の処罰については、なお従前の例によるとされています。

2026年9月1日から、中央線等が設けられていない一般道路の法定速度は30km/hになります。その道路では最高速度が30km/hなので、数値基準は30km/hに50km/hを加えた80km/h以上となります。ただし道路標識等で30km/hを超える最高速度が指定されている道路では、指定されている速度が基準になります。

基準となる「最高速度」の取り方が異なります。条文は、原動機付自転車を運転する場合には普通自動二輪車の最高速度を基準とすると定めています。原動機付自転車自身の最高速度(30km/h)を基準とするわけではありません。

走行予定エリアを事前に確認し、速度が出やすい地点を「気をつけよう」という意識づけにご活用ください。取り締まりの回避を目的としたものではありません。

本記事は安全運転の注意喚起を目的とした一般的な情報提供です。取り締まりの回避を勧めるものではありません。最新かつ正確な情報は、警察庁・各都道府県警察などの公式情報をご確認ください。