速度取締りの場所や重点を警察があらかじめ公表する。人手の要らない可搬式の装置で、生活道路でも速度を取り締まる。こうした取締りの仕組みは、ある時点で一斉に始まったものではありません。たどっていくと、2013年12月26日に警察庁の懇談会がまとめた1本の提言に行き着きます。
ここでは、「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する提言」の原文に当たり、提言が何を課題とし、何を求めたのかを確かめます。そのうえで、警察庁がその後に出した通達に、提言の内容がどう引き継がれたかをたどります。取締りを避けるための情報ではなく、警察庁が公表している文書に何が書かれているかの解説です。
提言をまとめた懇談会
提言をまとめたのは、警察庁の「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」です。懇談会のもとに取締りワーキンググループと速度規制等ワーキンググループが置かれました。委員は大学教員、自動車評論家、交通事故の分析や犯罪被害者支援の専門家などです。
出典: 提言「懇談会等の開催状況」。提言の取りまとめは2013年(平成25年)12月26日。
提言は「はじめに」で、懇談会を開いた問題意識を次のように書いています。
取締り場所が固定化され、交通事故抑止に効果のある取締りになっていないのではないかとの指摘もあるところである。
取締りが事故の抑止につながっているのか、という問いから出発し、取締りの在り方だけでなく、国民への説明の仕方まで議論の対象にした、というのが提言の組み立てです。
前提に置かれた「速度と事故」のデータ
提言は第1で、速度を管理する必要性を数字で示しています。
- 平成24年(2012年)中の、第一当事者が原付以上の車両である死亡事故3,734件のうち、約36%に当たる1,353件で第一当事者に規制速度の超過が認められ、その死亡事故率は規制速度を超えていない事故の約12倍だった。
- 仮にその1,353件すべてで規制速度の超過がなかったとすれば、死亡事故の約3割に当たる1,181件は死亡にまで至らなかったのではないか、と試算している。
- 平成24年中の事故では、危険認知速度(事故直前の速度)が70km/hを超えると致死率が10%を超え、10人に1人が死亡する確率になる。
- 衝突時の速度が30km/hを超えると歩行者の致死率が上昇する、という研究成果も挙げている。
そのうえで提言は、車両の走行速度の低下が事故の被害の軽減に結びついており、交通事故死者を減らすには速度規制や取締りによる適切な速度管理が必要だ、と結論づけています。
警察自身による点検——取締り場所10,486か所の総点検
提言で目を引くのは、取締りの実態について警察側の課題をそのまま書いている点です。2013年4月には、路側に装置を置いて違反車両を止める定置式速度違反取締りについて、全国的な総点検が行われました。
出典: 提言 第1の3(2)。点検後も、各都道府県警察で随時見直しを行っているとされています。
国民への説明についても、提言は率直です。
取締りに納得がいかないのは、取締りの交通事故抑止効果を国民が知らないことにも要因がある。これまで警察からの国民への情報発信が不足していたことは否定できない。
ポイント:提言は、取締り場所の固定化と、警察からの情報発信の不足を、警察側の課題として明記しています。ここから「取締りの考え方を公表する」という方向が出てきます。
提言が求めたこと(取締り)
取締りについて、提言は大きく3つの方向を示しました。
過去の交通事故の実態を分析して取締りの場所・時間帯を選び、それを定期的に見直す。計画・実行・評価・改善を繰り返すPDSAサイクルを、より一層機能させる必要があるとしました。
取締りスペースの確保が難しい生活道路や、警察官の配置が難しい深夜などでも取締りが行えるような機器の導入を前提に研究していく必要がある、としました。海外の導入例を挙げつつ、日本の法体系や道路環境に合うかの検証も求めています。
都道府県警察単位の大綱方針として「速度管理指針」(仮称)を、警察署などの地域単位で重点路線・時間帯を明らかにした「速度取締り管理指針」(仮称)を、それぞれ設定・公表する。個々の取締りは、その指針を具体化する手段として位置づけることを明らかにする、としました。
指針の公表には、提言自身が注意書きを付けています。指針はあくまで警察としての重点取締りの考え方を示したもので、取締りが重点路線だけでしか行われず、違反者の不意を突くランダムな取締りが行われないとの誤解が生じないように措置する必要がある、というものです。公表された路線は取締りの重点であって、それ以外の場所で取締りが行われないという意味ではありません。
また、委員の意見として「交通反則金収入が警察署の収入になることから警察が取締りを行っているというような誤解を払拭する必要がある」という記述もあり、取締りへの不信に正面から触れています。
提言が求めたこと(速度規制)
速度規制について、提言は道路の種類ごとに方向を示しています。
- 一般道路: 40km/h規制・50km/h規制を中心に、事故の発生状況も勘案しながら、実勢速度との乖離が大きい路線を優先して見直す。
- 生活道路: 運転者が分かりやすい面的な低速度規制をさらに推進する。この項には委員の意見として、「将来的な課題として、生活道路において30㎞/hの法定速度を導入することの可否について検討を行う必要もある」も挙げられています。
- 高規格の高速道路: 新東名高速道路をはじめ、設計速度120km/hで片側3車線以上の道路などについて、最高速度100km/hを超える速度への引上げの検討を早急に開始すべきだ、としました。引き上げる場合には、通行帯違反や車間距離不保持の取締り、運転者教育の推進が「極めて重要」とも書いています。
速度規制の理由を運転者に伝えることも課題に挙げています。規制速度は事故の多発や騒音など、運転者が目で見ただけでは分からない理由で下げられていることがあり、その理由を周知する必要がある、という指摘です。
その後の通達に引き継がれた内容
警察庁は提言を受けて、交通局長の通達で取組を示してきました。通達どうしの関係は、各通達の本文に書かれています。
2024年3月19日の通達は、PDCA通達の本文での記載によります(本文そのものは警察庁の通達一覧で確認できませんでした)。
2019年3月13日の通達は、取締りについて次のように指示しています。
生活道路や通学路等においても取締りを行うため、可搬式等の速度違反自動取締装置の整備を進め、地域住民の要望等を踏まえ、効果的な活用を図ること。
あわせて、都道府県警察単位での総合的な速度管理の考え方について指針を策定して情報発信し、警察署などの地域単位での速度取締り管理の考え方も具体的な指針として策定して情報発信するよう求めています。提言が「研究していく必要がある」とした機器と、設定・公表を求めた2つの指針が、通達の指示として書かれた形です。
2025年3月10日のPDCA通達は、冒頭で「平成25年12月に…提言…が取りまとめられた」と書き出し、取締りを計画・実行・効果検証・反映のサイクルで管理することを定めています。提言の「PDSAサイクル」は、Study(評価)をCheckとしてPDCAサイクルということもある、と提言自身が注記しています。PDCA通達の中身は「速度取締り指針とPDCA通達とは?」で詳しく扱っています。
生活道路と高速道路のその後
提言の速度規制の論点にも、その後の動きがあります。
- 生活道路: 道路交通法施行令第11条の改正(令和6年政令第248号)により、2026年9月1日から、中央線や車両通行帯などが設けられていない一般道路の自動車の法定速度は30km/hになります。提言の時点では委員の意見として「可否について検討」が挙がる段階でした。詳しくは「生活道路の法定速度30km/h化とは?」をご覧ください。
- 高規格の高速道路: 警察庁の有識者検討会が2023年12月にまとめた別の提言は、普通自動車等の規制速度について、2016年3月の「高規格の高速道路における速度規制の見直しに関する提言」等を踏まえ、新東名高速道路等の一部区間で120km/hを上限とする規制が実施されていると記しています。120km/hは法定速度ではなく、道路標識等による指定です(「高速道路の法定速度は車種で3段階」)。
生活道路の取締りに使われる可搬式の装置については「可搬式オービスとは」で扱っています。
走る人にとって意味すること
提言が繰り返し書いているのは、取締りは目的ではなく、交通事故を減らし被害を軽くするための手段だ、という点です。委員の意見として「国民は、警察の取締りを、取締り件数で評価するのではなく、交通事故の減少で評価している」という記述もあります。取締りの場所や重点が公表されるようになった背景には、取締りの理由を国民に説明しようという、この提言の問題意識があります。
公表された取締りの情報は、「この道は速度が出やすく、事故が起きやすい」という知らせとして受け取るのがいちばん素直です。提言が示したデータのとおり、速度が上がるほど事故は重大になります。取締りの有無にかかわらず、規制速度を守り、生活道路や通学路では特に速度を落として走りましょう。
見かけた取り締まりを共有して、みんなの注意喚起に。
よくある質問
2013年(平成25年)12月26日に、警察庁の「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」が取りまとめました。懇談会のもとに取締りワーキンググループと速度規制等ワーキンググループが置かれ、懇談会は2013年8月1日から12月18日までに3回、ワーキンググループは2つ合わせて7回開かれています。委員は大学教員、自動車評論家、交通事故の分析や被害者支援の専門家などです。
提言は、都道府県警察単位の大綱方針として「速度管理指針」(仮称)を、警察署などの地域単位で速度取締りを重点的に行う路線・時間帯を明らかにした「速度取締り管理指針」(仮称)を、それぞれ設定・公表すべきだとしました。警察庁は2019年3月13日の通達で、総合的な速度管理の考え方の指針と、地域単位の速度取締り管理の考え方の具体的な指針を策定して情報発信するよう指示しています。2025年3月10日の通達(PDCA通達)は冒頭で提言に触れたうえで、同日付けの通達(丁交指発第35号)で速度取締り指針を策定・公表することとしていると記しています。
そうではありません。提言は、指針はあくまで警察としての重点取締りの考え方を示したもので、速度違反の取締りが重点路線だけでしか行われず、違反者の不意を突くランダムな取締りが行われないという誤解が生じないように措置する必要がある、としています。公表された路線以外でも取締りは行われます。
提言が法定速度を決めたわけではありません。提言の生活道路の項には、委員の意見として「将来的な課題として、生活道路において30㎞/hの法定速度を導入することの可否について検討を行う必要もある」が挙げられ、提言としての結論は「運転者が分かりやすい面的な低速度規制を更に推進していくべき」でした。法定速度は道路交通法施行令第11条で定められ、2026年9月1日から、中央線などが設けられていない一般道路の自動車の法定速度は30km/hになります(令和6年政令第248号)。
都道府県別の取り締まりデータ
道路交通法違反の検挙件数(人口千人当たり・2023年度)は都道府県で差があります。全国平均は 36.1件。
47都道府県のランキングを見る本記事は安全運転の注意喚起を目的とした一般的な情報提供です。取り締まりの回避を勧めるものではありません。最新かつ正確な情報は、警察庁・各都道府県警察などの公式情報をご確認ください。